ヒューマン・ダイナミクスの柱
- 西山 達也
- 2018年11月11日
- 読了時間: 5分
第2回は Iasa 日本支部の理事たちも、口をそろえて重要であるとする「ヒューマン・ダイナミックス」のことを取り上げてみたいと思います。
他者を説得したり、交渉し協力関係を築いたりすることを「人間力」の要素のひとつであり、IT 技術者に不足している能力とされる方もおられます。この能力は持って生まれたものであったり、個々の経験により得られる抽象的なものであり、訓練して獲得できる具体的なスキルとは一線を画したものと考えられているかと思います。
しかしながら、ITABoK では、明確にスキルと捉え、「ヒューマンダイナミックス」と命名し、訓練すれば、身に着けることが出来るものとしてとらえています。
ITABoK ではヒューマンダイナミクスを以下のようにとらえています。
ヒューマン・ダイナミクスの柱で表現されるスキルは、成功を収めるアーキテクトとなるために必要な全スキルの中で最も重要と言えます。
ヒューマン・ダイナミクスのスキルは、プレゼンテーション、ライティング、顧客との関係、リーダシップ、同僚との関係、カルチャーマネージメント、コラボレーション、ネゴシエーションと多岐にわたります。
その中でも、コラボレーションとネゴシエーションが最も高く評価されてきました。ユニークなスキルとも言えますが、このスキルを身に着けるか否かで、アーキテクトの価値の評価が変わってきます。ビジネスの方向性とそのニーズを最大限に満たすには、ステークホルダーとの協働が必要となり、しばしばタフな交渉力が必要になります。
高く評価されるコラボレーションとネゴシエーションのスキルを身に着けることは、難易度が高いとも言えます。難易度が高いからこそ、評価も高くなるのです。では、どんなスキルを、どの程度、身に着けることが求められているのでしょうか?ITABoK では、以下の「2.1.2.5 コラボレーションとネゴシエーション」にその記述があります。参照ください。
2.1.2.5 コラボレーションとネゴシエーション説明
アーキテクトは彼らのコミットメントを実現すべく多様なステークホルダーと交流する必要があります。一般的に、アーキテクト自身の成果物は同僚(他のアーキテクト、プロジェクトマネジャー、開発チームなど)の成果物に直接依存しています。
同様に、アーキテクトのアウトプットが同僚のアウトプットに影響する可能性もあります。そのため、アーキテクトは自ら目指す活動項目を実現するためにステークホルダーと共に活動したりコラボレーションを行う必要があります。しかし、全てのステークホルダーが共通のプライオリティーを持っているとは限らず、彼ら自身のタイムラインによって拘束されている可能性もあります。同様に、アーキテクトのビジョンを共有するとも限りません。
しかし、製品を実現するための数多くのタイム・クリティカルな状況で、全ステークホルダーからの情報が必要となります。よって、ステークホルダーを納得させて最適なソリューションに到達し、目指している活動項目に対して継続的なコミットメントを確保するべく、ステークホルダーと交渉することがアーキテクトの責任となります。
概要 なぜアーキテクトにはこのスキルが必要なのか?
アーキテクトのミッションは多様なソースからのインプットを収集しており、裏を返せば、これには、顧客、開発チーム、異なるレベルの管理者、成果物が左右される他チームの同僚のアーキテクト等の、幅広い領域のステークホルダーと連動することが関係しています。
成果物は以下を満たす必要があります。
顧客のニーズ
必要とされる適応可能な標準
期待されるパフォーマンス要件
以下 略
ここでは、アーキテクトは、デザインするだけではなく「最適なソリューションに到達」することへの責任を担うことを求めています。それには、顧客、他のアーキテクト、プロジェクトマネジャー、開発チームなどと協働し、「動くシステム」を実現する必要があります。
デザインしたアーキテクチャーが「絵に描いた餅」であってなりません。繰り返しになりますが、「最適なソリューションに到達」するために、ITABoK では、コラボレーションとネゴシエーション力の必要性を強調しています。
さて、この能力を高めるには、コミュニケーションの原理原則を知り、多様なステークホルダーのニーズを引き出し、その上でコラボーレーションやネゴシエーションを行うことが有効です。少し、そのTips(コツらしきもの)を以下に示します。皆さんの Tips もコメント頂き共有できればと思います。
1.もう飲みにいったか?
コミュニケーションを円滑にするためには「ノミニケーション」と言われるものがあります。お酒を飲む場だけとは限りませんが、色んなシチュエーション(できればオフサイト)でコミュニケーションを図り、コラボレーションやネゴシエーションしやすい環境を事前に構築しておくことも効果的です。
2.協力会社を外注・業者扱いしていないか?
ステークホルダーのモチベーションが、成果を左右することが大いにあり得ます。互いにリスペクトすることで、コミュニケーションのベースとなり、切磋琢磨につながります。
3.プロジェクトは一つの社会という認識をしているか?
仕事と遊び・先輩と後輩・分担と協調・ルールと自由度などを認識し、良きコミュニケーションを図り、2~3か月に一度は目標の再確認と親睦を図るイベントを開催することで協調性が生まれます。
まだまだあるかと思いますが、オンサイト、オフサイトにかかわらず、場づくりやその中での立ち振る舞いにおいても、ステークホルダーとのコラボレーションが求められます。特に PM との連係は重要になります。また、若手にイベント幹事を担当してもらうことで、その訓練と実践の場とすることも一考ではないでしょうか?
註)
ITABoK Version2 日本語訳版、「2.1.2 ヒューマン・ダイナミクスの柱」P.105
ITABoK Version2 日本語訳版、「2.1.2.5コラボレーションとネゴシエーション」P.133
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