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執筆者の写真松井 淳

デジタル・カスタマージャーニー・マッピング

 この新コラムのシリーズでは、来たる2019年10月30日より東京で開催する「第8回 BITAS Executive Series 2019」(BITAS: Business and IT Architecture Executive Series) で行われる主要な講演テーマで扱うトピックやキーワードについて先行してご紹介する事を目的としています。第 8 回目を迎えるこのカンファレンスは、日本での開催は 2013 年の大阪開催に続いて 2 回目となり、アジア各国からの来場者も交えたデジタル・トランスフォーメーション (DX) とアーキテクチャに関連するテーマを扱うカンファレンスとして開催します。


 この BITAS 2019 カンファレンスのハイライトとして、以下のテーマを予定しています

  • イノベーションを促進し、継続的な変革を推進するための「デジタル・エンタープライズマップ」の紹介と活用

  • デジタル・エンタープライズ・アジリティを促進するクリティカルスキルの重要性

  • 現実世界のデジタル化のケーススタディ紹介とウォークスルー

  • デジタルビジネスを推進するための、デジタル・カスタマージャーニー・マッピング(このコラムで紹介)

  • ITをビジネスにとって戦略的に重要なものにするビジネス・アーキテクチャ

  • ヒューマン・ダイナミクスの複雑さを管理し、理解する上でのアート(技能)と科学

  • 成功するプロジェクト実施のためのビジネス要件アーキテクチャ

  • デジタルの混乱から競争上の優位性をもたらす、ビジネスチャンスへの変換

  • 日本企業への現地訪問を通してのDXの取り組みと企業文化の理解

  • 他国の参加者とのつながり、ネットワーキングおよび現実世界のシナリオの共有

 第3回目となる本コラムでは、デジタル時代のカスタマージャーニーマップとはどういうものなのか考えてみたいと思います。さらに、BITAS のメイン講演者のAaron Tan Dani 氏が紹介する「デジタル・エンタープライズマップ」との関係に触れてみたいと思います。なお、Dani 氏の略歴は本コラムシリーズの第1回「デジタル・エンタープライズマップ」を参照ください。

 

1. カスタマージャーニーマップとは


最初に、カスタマージャーニーマップの基本をおさらいしましょう。


 カスタマージャーニーとは、直訳すると「顧客の旅」、つまり「顧客が購入に至るまでのプロセス」のことです。顧客がどのように商品のことを知り、商品が欲しいと思い、購入や登録をしたのかという一連の行動や思考を旅に例えています。商品によっては、購入後の問い合わせやメンテナンスも含まれるでしょう。こうしたカスタマージャーニーを時系列的にまとめ、可視化したものを「カスタマージャーニーマップ」といいます。

では、カスタマージャーニーマップを作成する目的とは何でしょうか。


 その一つには、顧客が企業に期待することが変わってきたということがあげられます。顧客は企業から「特別な個人」として扱われ、どんな顧客接点でアプローチしても一貫性のある体験が得られることを期待するようになりました。こうした期待に対応することが、企業に求められます。また、企業組織の多くはマーケティング、営業、コンタクトセンターなど分業体制をとっています。カスタマージャーニーマップの作成を通じて、顧客の行動や感情が可視化されるので、部署が異なっていても社内で顧客理解を軸にした共通言語が生まれます。共通言語を手に入れることで、異なる部署が連携して施策を打ち立てることが出来るようになります。


 カスタマージャーニーマップの作成プロセスには決まったルールはありませんが、概ね次のような流れとなることが多いと思います。


1) ゴールを決定する


 どういった商品・サービスを対象としますか?今回のジャーニーで取り上げる顧客の行動範囲はどこからどこまでですか?最終的に顧客に取って欲しい行動や、そのジャーニーが終わった時点での望ましい状態とはどのようなものでしょうか?


2) ペルソナを明確にする


 メインターゲットとなる顧客像を明らかにします。最もその商品やサービスを使ってほしい人物のライフスタイルがわかるような情報でイメージを膨らませます。より具体的なペルソナを定義することで、次ステップの行動洗い出しの精度が高まります。


3) ペルソナの行動を洗い出しマップを作成する


 マップのフレームとしてよく使われるのが、顧客行動(プロセス)、顧客接点(タッチポイント)、顧客感情などです。ペルソナに関する情報をリサーチやディスカッション等を通して、フレームにまとめていきます。


4) 施策を検討する


 マップで洗い出した内容から、多くの問題点が見えてきます。望ましい顧客行動や顧客感情を引き出すためにどのような施策が必要でしょうか?どうすれば、顧客をより喜ばせることができるでしょう?


 カスタマージャーニーマップで重要なことは、最初にゴールを明確に定めるということ、作成したマップから具体的な施策を導くということ、そしてその実行結果をもとにマップをブラッシュアップしていくようにフィードバックサイクルをまわすことでしょう。それにより、最適化されたカスタマージャーニーを提供することができ、ビジネス成果につなげ易くなります。

 

2. デジタル時代のカスタマージャーニーマップに求められること


 デジタルの時代と言われる現代では、顧客行動に大きな変化が起こっています。例えば、次のようなことがあげられるでしょう。


1) 顧客体験のデジタル化


 顧客体験自体がますますデジタライズされ、相互作用の方法が変わってきています。従来のような、顧客担当や営業担当が直接に相対して顧客を獲得するというアプローチから、eメールやFacebookをはじめとする様々なソーシャルメディアプラットフォームを介したやりとりへの変化です。それによって、製品の宣伝や顧客を引き付ける方法も進化しています。


2) 顧客自体のデジタル化


 IoTデバイスやRPAの浸透により、もはや顧客側の担当者もヒトであるとは限らなくなりました。機器同士が直接ネットワークで接続し、相互に情報交換をしてさまざまな取引を自動的に行う仕組みとしてM2M(Machine To Machine)というコンセプトがあります。こうしたコンセプトを現実化するエコシステムが広がるにつれて、このエコシステムとつながりを持たない企業は淘汰されていくかもしれません。

 

 デジタル世代のカスタマージャーニーを考えるにあたっては、このような変化を理解する必要があります。大事なことは、顧客対応の取り組みをエンタープライズアーキテクチャの枠組みで捉えることでしょう。顧客対応と関連してどのようなテクノロジーが存在するのか、そのなかで組織的に取り込むべきものはどれか、これらのテクノロジーを取り込んだ結果としてビジネスプロセスをどう変えていくべきか。こうした問いに対して場当たり的に答えていくことはできません。本コラムシリーズの第1回「デジタル・エンタープライズマップ」では、アーキテクチャ上の主な構成要素の相互の繋がりや相互作用の可視化のためのツールとしての、デジタルEAマップとデジタルマップを解説しました。下図は、そこでご紹介したデジタルマップの全体像です。

 この全体像には、カスタマージャーニーマップの視点(Customer journey Map Viewpoint) が配置されています。そして、カスタマージャーニーマップの視点とモチベーションの視点(Motivation Viewpoint)が直接関連付けられていることがわかると思います。モチベーションの視点にはステークホルダーの価値・要求や、組織ゴールなどが含まれ、これら構成要素が戦略の視点(Strategy Viewpoint)のインプットとなります。このことからわかるように、モチベーションの視点は、組織のデジタル戦略を考えるうえで非常に重要な役割を果たします。さらに、カスタマージャーニーマップの視点をズームアップしてみましょう。

 モチベーションの視点と関連付けられている構成要素は、GoalとRequirementであることがわかります。本コラムの前半で「ゴールを明確に定めること」と「マップから具体的な施策を導くこと」が重要であると説明しましたが、その理由はここにあります。カスタマージャーニーマップのゴールと組織のモチベーションで掲げるゴールとの間には一貫性があるでしょう か(例えば、顧客の高い維持率、マーケットシェアの拡大など)。 マップから導かれた施策は、要求として確実に組み込まれているでしょうか (例えば、業務プロセスや製品コンセプト刷新、非構造データマネジメントやAIテクノロジーへの対応など)。


 これら全体の構成要素(顧客、関連する内外の組織、人、情報、プロセス、アプリケーション群、インフラストラクチャ群が含まれます!)の間のギャップをなくし、有機的に連携するための指針として、デジタルマップを活用することが有効であるといえるでしょう。

 

3. 終わりに


 本コラムでは、カスタマージャーニーマップを取り上げました。マーケティングのためのツールというだけの位置づけに留まらず、企業のテクノロジー戦略のなかでますます重要性が増しているということが、ご理解いただけたかと思います。


 BITAS2019のプログラムでは、Dani氏の講演に加えパネル・ディスカッションも予定されています。是非、こちらの機会にご参加頂いて先進事例に触れて頂ければと思っております。



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