体験価値(UX)を高める品質とは - Usability, Localization, Accessibility, Personalization/Customizability
- 末永 貴一
- 2月10日
- 読了時間: 5分
デジタル製品やサービスが日々進化する中で、ユーザーにとって体験価値を高める品質の高さがとは何かを考えることがますます重要になっています。品質というと故障が少ない、性能が良い等の機能的な観点で語られることが多いですが、それだけではユーザーの体験価値を高める品質的要素として不足しており、体験価値(UX)を高める品質的要素として「使いやすさ(Usability)」「ローカライズ(Localization)」「アクセシビリティ(Accessibility)」「パーソナライズ/カスタマイズ(Personalization/Customizability)」の4つを機能的品質に加えて考慮する必要があります。これらの概念を適切に設計に取り入れることで、より多くのユーザーに価値ある体験を提供し、競争力を高めることができます。BTABoKではこれらの要素をCompetency ModelのQuality Attributesで取り上げており、Quality(品質)というものを機能的な観点だけではなく、様々な要素により高められるものと捉えています。本コラムでは、BTABoKのCompetency ModelのQuality Attributesの中にあるUsability, Localization, Accessibility, Personalization/Customizabilityそれぞれの要素が持つ役割や実践方法について解説します。
使いやすさ(Usability): ユーザー中心のデザインとは?
ユーザビリティとは、「製品やシステムがどれだけ簡単に、効率的に、満足のいく形で利用できるか」を指す概念です。ISO 9241-11では、ユーザビリティを「特定のユーザーが特定の目標を達成する際の有効性、効率性、満足度」と定義しています。
ユーザビリティの重要性を考えてみるとデジタル製品が溢れる現代において、直感的に操作できないサービスはすぐにユーザーから敬遠されてしまいます。たとえば、ナビゲーションが分かりにくいアプリや、情報が整理されていないウェブサイトは、競合他社の製品に比べて不利になります。
ユーザー中心設計(UCD)のアプローチ
ユーザビリティを向上させるためには、「ユーザー中心設計(User-Centered Design: UCD)」が不可欠です。UCDでは、以下のような手法を用いて設計を行います。
ユーザー調査(インタビュー、アンケート、行動分析)
プロトタイピング(ワイヤーフレーム、モックアップの作成)
ユーザーテスト(A/Bテスト、ヒューリスティック評価)
使いやすさを向上させた成功事例として、AppleのiPhoneは、直感的なインターフェースとシンプルな操作性で世界中のユーザーに受け入れられています。また、Googleの検索エンジンも、ユーザーが最小限の手間で情報を得られるように設計されています。
ローカライズ(Localization): グローバル展開の鍵
ローカライズとは、特定の地域や文化に適した形で製品やサービスを最適化するプロセスを指します。単なる言語翻訳だけでなく、文化的・法的な適応も含まれます。
世界市場で成功するためには、ローカライズが不可欠です。たとえば、以下のような点に注意する必要があります。
言語の違い(直訳では伝わらないニュアンスを考慮する)
通貨・単位の変更(米ドルから円、華氏から摂氏への変換)
文化的な配慮(色やシンボルの意味、宗教的な要素)
法規制の順守(GDPRなどのデータ保護法に対応)
以上のことから単純に言語を現地の言葉に翻訳する対応だけではないことがわかりますが、これらの要素を後付けで実装するにはソフトウェア構造を大きく修正する必要が出てくる可能性があり、ソフトウェア・ウェブサービス等では上流段階でローカライズ戦略の是非を考慮しておく必要があります。例えばローカライズ戦略として以下のような項目が考えられます。
インターナショナルデザイン:最初から多言語対応を考慮する
柔軟なインターフェース:言語によって文字の長さが変わるため、適応可能なデザインを採用
ローカライズテスト:ターゲット市場でのユーザーテストを実施
ローカライズ戦略の成功事例としてはNetflixは、各国のユーザー向けにローカライズしたコンテンツを提供し、世界中で成功を収めています。また、Airbnbも、現地の文化に配慮したユーザーインターフェースを提供することで、グローバルな展開を成功させています。
アクセシビリティ(Accessibility): すべての人に優しい設計
アクセシビリティとは、障がいを持つ人々を含むすべてのユーザーが、製品やサービスを利用できるようにすることを指します。特に、視覚・聴覚・身体的な制約を持つ人々への配慮が重要です。これらはウェブコンテンツのアクセシビリティに関する国際基準であるWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)や米国におけるアクセシビリティの法律であるADA(Americans with Disabilities Act)等で定義されています。
PCのOS等でも標準機能として実装されていますが、以下のようなものがアクセシビリティの代表的な実装といえます。
スクリーンリーダー対応(音声読み上げ機能の実装)
高コントラストモード(色覚障害のある人向けに適応)
キーボード操作の最適化(マウスを使えないユーザーへの配慮)
パーソナライズ/カスタマイズ: ユーザー体験の最適化
パーソナライズとカスタマイズは一見すると似たような意味合いに取られる場面がありますが、以下のような違いがあります。
パーソナライズ:システムが自動的にユーザーの行動を学習し、最適な体験を提供する(例:Amazonのレコメンド機能)
カスタマイズ:ユーザー自身が設定を変更して最適な環境を作る(例:ダークモード、フォントサイズ調整)
上記の定義で考えるとシステムが自動的に行うものなのか、ユーザー自身が行うものなのかという部分に違いがあります。特にパーソナライズに関してはシステムが自動的に行うものであるため、AIというコンテキストで語られることが多く、実際にAmazon、Netflix、Spotify、その他様々なサービスでAIを活用してユーザーの嗜好に基づいたコンテンツを提供する企業が増えています。
「使いやすさ」「ローカライズ」「アクセシビリティ」「パーソナライズ/カスタマイズ」は、現代のデジタル製品の成功を左右する重要な要素です。これらを適切に取り入れることで利用時品質というユーザー(利用者)が直接感じる品質を高めることができ、より多くのユーザーに価値を提供し、企業の成長を加速させることができます。今後も、ユーザー体験を向上させるための技術や手法は進化し続けるでしょう。デジタル製品を開発する際には、これらの要素を意識し、より優れたサービスを提供していくことが求められていくでしょう。
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