BTABoKといえば「エンゲージメント・モデル」ですが、その前身であるITABoKといえは「5つの柱と4つの専門領域」でした。もちろん現在もこれらは全て「コンピテンシー・モデル」としてBTABoKに受け継がれ、さらに加筆修正、新たな項目の追加が随時行われています。今回はBTABoKの「インフォメーション・アーキテクチャ」コンピテンシー・モデル、つまりITABoKでいうところの「インフォメーション・アーキテクチャの専門領域」に新たに加わった"Informat
ion Usage" (「情報の使用」)を、仮訳のかたちでご紹介します。
情報の使用
解説
情報・ナレッジの管理は、自覚の有無に関わらず私たちが日常的に行っているあらゆるビジネス、職業、仕事の中核をなすものです。探している情報を見つけるのが簡単であればあるほど、顧客へのサポートやビジネスの強化、そして目の前の仕事をこなすことに、より多くの時間を費やすことができます。
インフォメーション・アーキテクト(IA)として、あるいはどの役割であれ、成功のためには誰が顧客なのか、現在、そして今後どのようなニーズがあるのかを知り、理解する必要があります。 これは文字通りすべてのアーキテクチャ分野をつなぐ架け橋たるIAにとって特に重要です。加えて私たちが顧客と向き合っているという事実の重みは、直接的あるいは間接的に顧客に影響を与えかねず、私たちの両肩に重くのしかかっています。しかし私たちはひとりではないことが救いです。私たちはさまざまな部署や顧客との架け橋となっているので、この重荷を背負う助けを得ています。私たちはすべての答えを持っている必要はありません。私たちに必要なのは、情報を分類・保管することで、パートナーが過去、現在、そして未来に生じる疑問や答えを見つける手助けをする司書としての知識と専門性です。最も成功したIAとは、デジタル・ランドスケープ全体のためのデューイ十進分類法のカスタマイズに留まらず、利用者がその分類法を活用し、必要な時に必要な場所で必要なものを、利用者が努力することなく見つけられるようにする能力を持つ現代のライブラリアンです。
「情報の使用」コンピテンシーの概要
「どのように」情報は用いられるか
今日の「do more with less data」という世の圧力と、人間が消費しやすい形へのデータ集約とは最も深刻なジレンマです。もし情報が目の前の問題や疑問の解決に役立たなければ、ステークホルダはその情報には価値がないと思い情報から離れていくでしょう。私たちはADD処理が多すぎる情報過多社会になりつつあり、長々とした説明ではなく即答を求めるあまり忍耐力も低下しつつあります。コンピュータとともに...
あなたの役割や専門分野によっては、あなたが育む情報が人間だけでなく機械にも消費されることは驚くに当たらないでしょう。私たちがソリューション・アーキテクチャを考えるとき、もはや人間だけ、あるいは機械だけを顧客とすることはできません。私たちが暮らす電子の世界では、このふたつの境界線はあいまいです。将来的な情報活用の道を阻むことにならないよう、私たちのすることのすべては、その両方を考慮に入れなければなりません。そのためにはどうすれば良いのでしょうか?アーキテクトとしてご存知のように、答えは「何」ではない、「どのような」制約の中「どのような」方法で問題を解決してほしいかということです。アーキテクトとして、問題を「ひとくち大」に分解するのが一番だと私は考えます。それぞれの側面から問題を見て、最終的に両者が満足するようなインターフェースや抽象化レイヤーの存在を確認することです。
「いつ」情報は用いられるか
情報は私たちが思っている以上にさまざまな形で利用されていることがわかりました。今回のレッスンや今後のプロジェクトを通して、情報が「どのように」使われているのかを見逃さないようにしましょう。次に、情報が「いつ」使われるのかを詳しく見てみましょう。情報は私たちの日常生活で常に使われています。そのような内的プロセスは潜在意識が代行するので、私たちはほとんどそのときを意識することはありません。情報は、私たちのさまざまな感覚を通して、継続的なインプットとして、意思決定を行い、事実、仮定、プロセスをサポート・検証し、研究開発で興味深い分析を支援することに使われます。情報が「いつ」使用されるかは、朝の服装を決める、いい匂いのするドーナツを口に入れる、といった基本的なことから外れるとき、私たちのビジネス、そのために私たちが設計するソリューションにも同じことが当てはまるとわかります。
情報をいつ使うかは、アーキテクトとして常に間違いなく答えられる数少ない問いのひとつです。IAとしての私たちの役割は、情報を取得し、保存し、カタログ化し、さまざまな情報源が必要なときに利用できるようにすることです。同様に、情報の消費者がより賢明な決断を下し、彼らのイニシアチブを支援し、また重複作業を減らすことで研究開発を促進し、そして未知なるものへの認識を取り除く、そのような役に立つ情報が入手可能であることを、彼らに教え啓発することが、私たちの正しい仕事のやり方です。
「どこで」情報は用いられるか
ここまでが前半です。私たちは情報が「どのように」使われるかをもっと注意深く見るべきです。情報は常に私たちの周りで使われているのでなお更です。それゆえ私たちは、情報を理性的に捉え共有することをより意識する必要があります。ここで、私たちが様々な形で備蓄し、さらに様々な方法で利用可能にしたこれらの情報を、私たちは「どこで」使うつもりなのか、という疑問が生じるはずです。合ってますか?インフォメーション・アーキテクトとして私たちは、すべてのアーキテクチャ・ドメインおよび、それに加えてビジネスのあらゆる側面の橋渡しをコントロールし、構築する責任を負っています。これらの橋は、部署や事業部門、時には国土や別の会社にまでまたがるものです。情報が「どこで」使われるかは、開発者のクリエイティビティによってのみ制約を受けます。情報とは、画家が真っ白なキャンバスに塗る絵の具のようなものだと考えましょう。その情報を使ってデータベースをデザインするアーティストもいるでしょう。
私たちが提供する情報は、DBは構造化・正規化され、水平にも垂直にもスケーラブルで、データをサブコンポーネントに分割でき、DBの消費者が必要なものを迅速かつ合理的に入手できるようにします。
また、私たちの情報がドキュメントの作成に使用される場合もあります。これらのドキュメントは私たちが提供する他のすべてと同様に、無限の形で存在します。あるドキュメントは財務分析用のスプレッドシートかも知れません。そのようなときに私たちが提供する情報は、私たちの資産、特許、著作権、商標を保護する法的な様式や、パートナーや潜在顧客との拘束力のある契約の裏付け資料などかも知れません。その一方で、人事部門が単に従業員の記録を作成するために使われるだけの情報もあるでしょう。
IAとしての役割によっては、情報はウェブベースのサイトやアプリケーションを設計する際のコア・ソースと考えるのが一般的でしょう。人間とのインタラクションのためのサイトやアプリのナビゲーションを、シンプルで楽しく、よく考え構築することや、インターフェイスをガタつきがなく、美的に魅力的に作ることなどです。
「なぜ」情報は用いられるか
この時点で、情報がいつ、どこで、どのように使われるかについて、より包括的な認識が持てたことでしょう。でもなぜでしょう? 私たちが使うものとして情報が重要なのはなぜなのでしょうか?私たちが情報を利用する一般的な理由としては、市場検証、ユーザビリティの実装、知識・コンテンツ・ドキュメントの共有・管理、そして最近取り上げたビジネス・プロセス管理などがあります。
市場検証は、ビジネス・アーキテクチャ・グループとエンタープライズ・アーキテクチャ・グループとの架け橋となる多くの理由のひとつです。あなたが彼らに提供する情報によって、彼らは様々なことを行う、または行わないビジネスケースを提示できます。企業の買収、製品・ソリューションの構築と購入の比較、企業のミッションの調整、新たな収益源への着手、既存の機能や製品ラインの更新や廃止などです。これらはあなたが他に提供した情報が、市場ベースの戦略や意思決定などの検証に使用される可能性がある多くの意思決定のほんの一部に過ぎません。
ユーザビリティはふたつのパスに分かれますが、どちらももう一方に大きく依存しています。どちらか一方を行うか、あるいは両方を行うかは、当然ながらチームや会社の規模や複雑さによって異なります。一方はデザインと実装のUX専門家です。もう一方は、ユーザビリティ・スタディの専門家たちで、ユーザビリティ調査の方法、内容、場所、時期、理由の策定だけでなく、実施された実験の結果を集計し、偏りのない意味が得られるようにします。最終的にこのふたつのグループが一緒になって、内部・外部に関わらず、私たちが提供する製品の使用を通じた、ユーザーの楽しくサクセスフルな経験に関係する情報アーキテクチャの基礎を作り上げます。このふたつのトピックは、それら自体が立派なトレーニングコースになります。
IAとして、当然ではあるものの、時に最も困難な責任のひとつ、そして最大の「なぜ」情報は用いられるかの理由のひとつがナレッジ・コンテンツ・ドキュメント管理です。目的はシンプルで、情報検索のコストを削減しリターンを最大化する一方で、情報作成の労力の重複を削減することです。シンプルですね。でも違います。スープにどんなスパイスを加えたらいい味になるか、それぞれの考えで調理しているコックがキッチンに多すぎることがよくあります。厳格なガバナンスと経営陣の賛同が、IAとしてのこの業務領域での唯一の希望です。営業担当者は自分の連絡先をサイロ化したがり、人事部は機密情報の漏洩を恐れて共有せず、ソフトウェア・エンジニアは「どのように」や「なぜ」を文書化しません。そしてもちろん「誰も私のやり方を知らなければ、私の仕事は安泰だ!」という標準的かつ典型的なメンタリティがあります。残念ながらこれは真実とはほど遠く、ナレッジの文書化や共有がなされていないため、その社員はその特定の仕事をこなせる唯一の人間となり、むしろ昇進やキャリアアップの妨げになります。これは非常に重要なトピックで、IAとしてそのチャンスや機会が与えられたら、この問題にどのように取り組めばより効果的なのか、そのヒントを提供するユースケース・シナリオをのちほど用意します。
ビジネス・プロセス・マネジメントは、ここで取り上げる「なぜ」情報が用いられるかの最後の例です。明らかに、そして願わくば、これまでのカリキュラムを通して、情報が使われる、あるいは使われる可能性がある他の理由をすでに皆さんが考えているように、私たちは十分な種をまいてきました。ビジネス・プロセスの作成、見直し、強化、最適化に情報を活用することで、直感や感覚ではなく、ファクトベースの意思決定を確実に実行できます。脊椎反射ではなく情報を活用し、時折発生する不具合ではなく、現実に基づいた最善のビジネ・プロセスを実現できます。理想的には、フィードバック・ループで不調なプロセスに情報を提供すれば、不具合は説明され、たとえ滅多に起きなくても、あなたや顧客に悪影響を及ぼすようなことはなくなります。
「情報の使用」コンピテンシー・モデル、いかがだったでしょうか。BTABoKをもっと知りたい方のために、IASA日本支部はBTABoK解説セミナーを開催しています。最新の開催予定、参加お申し込みはイベントページをご覧ください。ご参加お待ちしています!
Comments