本コラムでは、BTABoKオペレーティングモデルの概念である「ロードマップ」を取り上げます。
現代において企業ITシステムのロードマップの重要性は、ますます高まっています。その理由は、ビジネスとテクノロジーの迅速な変化に対応するためです。デジタル変革を進めるには、短期的な対応ではなく、将来に向けた全体的な戦略と計画が必要です。ロードマップは、企業が新しい技術を取り入れ、顧客に価値を提供する製品やサービスを開発する際の指針となります。これにより、計画的にリソースを配分し、優先順位を設定することで、変化に柔軟かつ効率的に対応し、競争優位性を維持することが可能となります。
BTABoKにおいても、長期的なビジネス目標や製品開発の計画を視覚的に示すロードマップの重要性を強調しています。ロードマップは、目標達成の計画を時間軸に沿って描いたものであり、企業価値を提供する大規模な活動の計画に用いられます。特に革新と変革の段階で利用され、新しいイニシアチブの計画、実行の追跡、重要な依存関係の特定に役立ちます。また、ロードマップは、リソースや予算に関する大まかな見積もりを立てる枠組みとしても機能し、ビジネスイニシアチブの実行可能性を評価する前段階として利用されます。詳細は、オペレーティングモデル - ロードマップをご覧ください。以下で、簡単にその内容を紹介したいと思います。
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1. ロードマップが必要な理由
企業は戦略的なイニシアチブの多くを長期計画し、ステークホルダー間で共通の理解を促進する必要があります。ロードマップは、それらの依存関係の可視化によりリスクを減らし、優先順位付けを支援し、予算やリソースの概算に役立ちます。進捗の可視化はステークホルダーのモチベーションを高めます。また、アーキテクトにとっては、時間を考慮したアーキテクチャの方向性を示し、代替アーキテクチャの選択肢を評価するツールとなります。
2.ロードマップアプローチ
良いロードマップ作成のための重要な原則には、ロードマップの範囲を明確にし、ビジネス中心の計画を立てることが含まれます。ロードマップは長期的な視点を提供し、大規模な変化を計画するものであり、プロジェクト計画とは異なります。項目はビジネスの目標や目的に明確に貢献する必要があり、実現可能性の評価はプロジェクト計画で行います。また、ロードマップは範囲外の項目を避け、すべてのステークホルダー間で誤解のリスクを減少させるために、スコープを明確にする必要があります。
3.戦略的ロードマップと製品開発ロードマップ
ロードマップには戦略的ロードマップと製品開発ロードマップがあります。戦略的ロードマップは企業全体や製品ポートフォリオの長期計画を示し、広範囲に渡ります。これは組織の上位ビジネスパーソン向けであり、製品開発に関する成果物を含みます。一方、製品開発ロードマップは具体的な製品に関連する計画です。両者は密接に関連しており、戦略的変更が製品計画に影響を与え、その逆も同様です。この関係性を理解し、効果的に管理することで、リスクや依存関係を早期に特定し、負の影響を軽減できます。
4.戦略的ロードマップ
戦略的ロードマップは、組織の戦略的目的や目標を達成するために、企業、ビジネス、インフラストラクチャの変化を含む一連の成果物を計画します。これらは、トランジションを通じて組織の初期状態から目標状態への移行を促し、組織内で変化のリンクを作成します。ロードマップ作成のプロセスは、ビジョンとスコープの合意から始まり、ワークショップを通じて目標、目的、期限を明確にし、移行を定義します。このアプローチにより、成果物の優先順位付け、依存関係の管理、ステークホルダー間のコミュニケーションが強化されます。
5.製品開発ロードマップ
製品開発ロードマップは、特定製品の長期計画を示し、リリース、機能、イベントに焦点を当てます。リリースは製品のバージョンで、明確なスコープと目標が設定されます。このロードマップは、製品管理と開発チームに方向性を提供し、企業戦略との整合性を図ります。また、リリース計画では、開発サイクルの主要イベントやQAを含め、製品の要件を満たす機能(エピックとも呼ばれる)の開発を計画します。
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以上、ロードマップの記事の内容を概観しました。実際の記事では、多くの構造化キャンバスも紹介されていますので、みなさんにとって価値ある情報源になると思います。
さて、みなさんにお尋ねします。このようなロードマップが組織的に運用されている企業は、現実にどれだけあるでしょうか?多くの企業にとって、ロードマップを組織的に定義し運用する際の障壁が存在します。まず、明確なビジョンや目標の欠如が挙げられます。ビジョンや戦略的目標が不明確であると、ロードマップの方向性を決定することが難しくなります。次に、組織内のコミュニケーション不足や部門間の調整の欠如も障害となります。異なる部門やチーム間での目標の認識のズレや協力の不足は、組織全体での取り組みの一貫性を損なうことになります。また、適切な技術やツール、スキルの不足も、効果的なロードマップの作成と実行の妨げとなることがあります。これらの障壁を克服するには、組織全体での明確なコミュニケーション、共有ビジョンの確立、適切なリソースとスキルの確保が必要です。そしてアーキテクトこそ、そうした役割を担う最適なポジションにあるといえるでしょう。 Iasa日本支部は、このようなスキルを備えたアーキテクトが一人でも多く活躍できるような業界にしたいと考えています。今回解説したロードマップのスキルは、変化の時代に生きるアーキテクトに不可欠なものです。今後のIasa日本支部の活動へのご参加、ご協力をよろしくお願いいたします!