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執筆者の写真 西山 達也

コラム BTABoK EngagementModel(1)~エコシステムとアーキテクチャ~

今回のコラムは前回の第25回「BTABoKが拓くアーキテクチャ実践の新時代」の続編として、BTABoKの新しいバージョンであるアウトカムモデルのパブリックレビューの記述を見ていきたいと思います。


アウトカムモデル(第25回コラムより)

円環の外側にあるアウトカムモデルは、ビジネスの全構成員が達成したいことをまとめたものです。これらは、デジタルアドバンテージに関連するビジネス全体の目標です。アウトカムモデルは、デジタルアドバンテージの測定方法であり、アーキテクチャの実践を測定するために使用される成熟度モデルに直接関連しています。各成果は、その影響力のある領域(IBAM領域)に関連します。

 

アウトカムモデルのパブリックレビューの目次は以下のような構成となっており、数多くの項目について記述されています。


Ecosystem

Engagement

Journey

Strategy

Agility

Business Capabilities

Culture

Collaboration

Automation

Imagine the Digital Customer

Digital Business Model

Digital Employee

Empowerment

Operational Excellence

Velocity

Simplicity


これらのうちEcosystem(エコシステム)は、ITABoKでは論述がなく、BTABoKで真っ先に論ぜられている内容でもあります。BTABoKを理解するための前提とも言えますので、当コラムでは、この記述を翻訳し要約するとともに、筆者なりの解釈を加えていきたいと思います。

BTABoKでは「エコシステム」について、以下のように捉えています。


エコシステムとは(BTABoKから抜粋)

エコシステムは、組織が参加し、相互作用し、エコシステム内の他の関係者から影響を受ける外部環境を表します。エコシステムの代表的な関係者は以下の通りです。

サプライヤー

顧客

競合他社

政府機関

パートナー

エコシステムは、設計されて作られることもあれば、イノベーションの結果として自然に進化・成長することもあります。エコシステムは、適応性、自己組織化、拡張性があり、疎結合で、エコシステム内の関係者の明確なコントロールはありません。本来、生態系は複雑な無秩序システムであり、内外の力によって時間とともに変化します。


エコシステム内の関係者の相互作用やコラボレーションは、機会を提供する価値の流れを作り出します。価値が増加するとエコシステムは成長し、価値が減少するとエコシステムは後退します。この結果、エコシステムはより価値の高い別のエコシステムに追い越されるでしょう。


 このように、BTABoKでは、エコシステムの関係者が変化を起こし、価値を増減させることでエコシステムに影響を与えていることについて注目しており、価値を高めることがエコシステムの成長につながることであると強調しています。そのうえで、アーキテクトがエコシステムを理解することの重要性を以下のように述べています。


アーキテクトは、機会を発見し、リスクを軽減するためには、エコシステムを理解することが重要です。組織がどのように顧客に価値を提供しているかを理解することは、イノベーションとオペレーションの最適化のための基礎となります。組織がエコシステムと統合するために行った戦略や決定は、アーキテクチャを形成する上で重要な要素となります。エコシステムを軽視するアーキテクトは、アーキテクチャを開発する際に制約や機会を見逃すリスクがあります。


 ここでは、アーキテクチャを開発する上で、エコシステムを軽視できないことを訴えており、アーキテクトは組織の価値の提供についての理解が欠かせないと考えられます。だからこそ、エコシステムを理解することは、以下のような効果があるのだと述べています。


機会を最大化し、リスクを低減する

エコシステム内の関係を理解することで、エコシステム内の事象がもたらすマイナス効果、プラス効果を予測するために必要な知識を得ることができます。これにより、組織は機会を迅速に利用することができ、また、リスクを特定し、それを軽減することができます。


では、エコシステムを理解するためにはどうすれば良いのでしょう?

BTABoKではカスタマージャーニーの理解の必要性を述べています。それは、顧客への価値の提供の重要性にあることに他ならないことでもあります。


カスタマージャーニーを理解する

エコシステムを理解するためには、組織外部の関係者との顧客とのやり取りを含むカスタマージャーニーを理解することが重要です。これにより、潜在的な協力関係の基礎が得られ、また、顧客により大きな価値を提供するために当事者がどのように協力できるかについて理解することができます。


カスタマージャーニーを理解し、さらに、顧客視点からエコシステムを理解することで、顧客にとってより良い体験を検討することが可能であるとしています。


顧客視点でのエコシステム

顧客の視点からエコシステムを理解することで、アーキテクトは、異なる当事者のサービスを接続する機会や、顧客にとってより良い体験と付加価値を提供するサービスを作成する機会を検討することができます。

また、エコシステムは大きなイノベーションから生まれることもあります。市場や産業を変化させたり、創造したりする破壊的なサービスや製品です。例えば、スマートフォンの登場がそうです。これらのイノベーションは、顧客中心の視点を持っていることが多く、エコシステムを変化させたり、生み出したりした考え方の例として、次のようなものがあります。


ヘンリー・フォード(Ford)は「誰もが自動車を持てるようにするにはどうしたらいいか」と問いかけた。

スティーブ・ジョブズ(アップル)は、「何があれば、誰もがコンピュータを持てるようになるか」と問いかけた。

盛田昭夫(ソニー、ウォークマン)は「何があれば若者が自分の音楽を持てるようになるか」と問いかけた。

ジェフ・ベゾス(アマゾン)「何があれば、人々はオンラインで買い物をするようになるだろうか」。


しかしながら、現実は顧客視点だけでは、エコシステムをデザインしたり、変化に対応したりできません。BTABoKではアーキテクトの考慮すべき視点は、顧客からは見えない当事者にも目を向けるべきであるとしています。。


組織から見たエコシステム

顧客の視点は、顧客の目を通してエコシステムを見るが、多くの組織は、顧客からは見えない当事者と関係を持っています。これらは、組織が価値を提供するために必要なビジネスサービスや製品を提供するエコシステム内の関係者であり、事業運営に不可欠な存在である場合もあります。

ビジネスを継続的に運営し、オペレーションと価値提供を最適化するために、アーキテクトが考慮すべき重要な視点です。エコシステムの変化は、組織が製品やサービスを提供する能力に大きな影響を与える可能性があり、その結果、アーキテクチャに大きな変化をもたらすことになります。


 エコシステムの変化がアーキテクチャへ影響を与える具体的な例としては、まさに、コロナ禍の現在において、顕著に表れているかと思います。

 テレワークにおける営業活動などの変化にはじまり、製品戦略やサプライチェーンの見直しが必要となり、ビジネスアーキテクチャの改革を迫られており、アーキテクトの出番は益々求められるようになっています。

 では、変化していくエコシステムをどのように捉えれば、良いのでしょう。BTABoKではエコシステムの分析をエコシステムマップキャンパスを用いることにより、「エコシステム内の真に重要な関係者に注意を向けることができる」としています。


エコシステムの分析

以下は、エコシステムマップキャンバスです。これは、特定のSubjectを取り巻く様々な関係者の宇宙のようなエコシステムを示しています。


エコシステムは様々な視点から見ることができ、各組織はエコシステムに対して独自の利害関係を持つことになります。したがって、エコシステムを分析するために使用されるモデルは柔軟性があり、異なるタイプの組織や異なるタイプの顧客に対して使用することができる必要があります。エコシステムマップキャンバスは、エコシステムを特定のSubjectの周りに組織されたさまざまな関係者の宇宙のように示しています。

尚、詳細は「Analyzing the Ecosystem」の項の翻訳を別添しますので、「第26回コラムEngagementModel(1)別紙Analyzing the Ecosystem翻訳」を参照ください。


さらに、BTABoKではこのエコシステムマップの活用方法として、エコシステムマップと戦略の組み合わせを提案しています。


エコシステムマップと戦略の組み合わせ

エコシステムマップは、組織の戦略立案で用いられる手法と組み合わせることが可能です。戦略立案でよく使われる手法に、PESTELとSWOTがあります。これら2つの手法のアウトプットは、エコシステムのマップに使用することができます。これらは、PESTELのカテゴリーをDimensionsとして、SWOTのカテゴリーをAspectsとして示すことで、エコシステム上で組み合わせることができます。


戦略立案手法における分析結果をエコシステムマップに使うことが出来るとしています。また、エコシステムマップにより、エコシステム内の関係者とその関係を把握することが、アーキテクチャを決定し、ひいてはエコシステムに影響を与えるとまで指摘しています。


エコシステム内の関係者とその関係を把握することは、重要なビジネスやアーキテクチャの意思決定に役立ち、ひいてはエコシステムに影響を与えることができます。また、規制の変更、市場の変動、新しい法的要件などのイベントの原因と結果を理解することにも役立ちます。これらの事象は、エコシステム内のさまざまな関係者にプラスにもマイナスにも作用します。エコシステムにおける潜在的な影響を評価し、行動を起こす能力は、組織の競争優位につながります。


以上、今回新たになったBTABoKのアウトカムモデルに関するエコシステムについての記述を概観してきました。

原文は、IasaGlobal のホームページに掲載されており、そちらを参照ください。(文末にリンクを記載)Iasa日本支部では、これらを日本語訳して、Iasa日本支部の会員等の皆様にご提供する予定です。

また、BTABoKの理解を深めるためにコミュニティ活動の一環として、「ラウンドテーブル」と称して勉強会を開催しています。

これらの予定はIasa日本支部の支部のホームページに掲載しますので、参照ください。よろしくお願いします。


◆アウトカムモデルのエコシステムの項

https://itabok.iasaglobal.org/itabok3_0-2/digital-outcome-model/ecosystem/ 

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